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​スチルストーリー
ノヴァ[制服]
薄暗い自室で目を覚ます。右の眼帯を締め直し時計を見れば、いつもの起床時間だ。
皺ひとつない制服に腕を通し、ローブを抱え一階へ降りた。
「蟹くん、朝だ。起きたまえ」
廊下の奥の物置部屋に声をかける。何か物が落ちるような音が数回したのち、白髪の青年が気怠そうに部屋から出てきた。一言二言交わしリビングのテーブルに着かせる。彼がテーブルを枕に二度寝を始めたのを横目にキッチンへ向かい、朝食の準備を済ませる。トースト、チキン、スクランブルエッグ、少しの生野菜、紅茶、錠剤。
「行儀が悪い、しっかり起きて食べるんだ」
「眠ィんだって…」
「毎日毎日、夜更かしでもしているのか?」
「別に、まわりがウルセェからあんま寝れなかっただけだよ」
​それは、と言いかけて飲み込む。彼の体質からするに、家の軋む音や外を歩く小動物の足音さえも眠りを妨げる騒音たるのだろう。頬杖を突きながらだらしなく食事をする蟹くんの足を、テーブルの下で軽く蹴った。
「今日の放課後は雑貨屋へ行く」
長い前髪の奥で赤い目が大きく見開かれた気がした。何故だ、と言わんばかりの馬鹿丸出しの顔だ。
「たしか二階のご婦人が睡眠に役立つものを取り扱っていたはずだ、それを見に行く」
蟹くんは、何を言っているのか理解できない、という顔をして取り敢えず頷いた。
朝食を片付けながら今までの生活を顧みる。自分以外の誰かの生活を気遣うなど到底理解できなかったが、今ではそれが自然とできるようになっている。なんとも不本意だ。
「行くぞ」
今日の授業は選択制が多い、蟹くんと別クラスなのは2コマ、その分の予習ノートはすでに彼のロッカーの中だ。これなら彼が小テストで馬鹿な点数を取ることも、教師に当てられ困ることもないだろう。本当に、不本意だ。
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